はじめに:「で、結局どうすればいいんですか?」
こんにちは、yasuです。
リサーチャーとしてキャリアが浅いときに感じた違和感について今日はお話をしようかなと思います。クライアントの課題に向き合い、一生懸命プロジェクトマネジメントも行い、自信をつけてきた、そんな万能感があふれる初級リサーチャーの後期のお話ですね。
あるプロジェクトの報告会。
しっかりと設計された定量調査で、ターゲットの実態も市場構造も浮かび上がった。
全体で5,000サンプルサイズも回収しており、統計的にも分析に耐えらえる信頼できる設計だ。
なのに、最後にこう聞かれる。
「で、結局、どうすればいいんですか?」
数字は正確だった。説明にも納得してもらえている。でも、腹落ちしていなかった。
そのとき、私ははっきりと確信した。「数字だけでは“意味”が足りない」と。
定量調査と定性調査の違いとは?
定量調査 | 定性調査 | |
---|---|---|
目的 | 仮説の検証・傾向把握 | 仮説の探索・背景理解 |
手法 | アンケート・数値分析 | インタビュー・観察・エスノグラフィー |
結果 | 数字で語れる「全体像」 | 言葉で語られる「文脈」や「動機」 |
強み | 再現性・規模感・傾向把握 | 発見・洞察・意味づけ・因果の深堀 |
限界 | 背景や意図の解釈が難しい | 数的な一般化には不向き |
定量は“地図”。定性は“そこに住む人の営み”。そう教えてくれた先輩がいる。
戦略を描くには、両方がいる。でも、ときに地図にない道を見つけるには、定性的なアプローチでそこに住む人(=生活者あるいは消費者)の論理や情緒が欠かせない。
事例:数字では見えなかった“買わない理由”
ある食品メーカーの機能性食品の新商品の調査。
調査では「興味あり」「健康意識が高い層にニーズあり」と出ていたが、初速が伸びなかった。
そこで、未購入者に定性インタビューを実施。
すると、こんな“語られていなかった回避理由”が見えてきた。
- 「体にいいのはわかるけど、気分が上がらないから買う気がしない」
- 「パッケージの色が“薬っぽくて”避けてしまった」
- 「SNSで話題になってないから、わざわざ買う理由がなかった」
数値データでは「価格」や「認知率」が原因と見られていたが、実態は情緒的な共感の欠如であった。
商品は“正しい”けれど、選ばれる理由がなかったのだ。
この気づきが、パッケージ変更や売り場コピーの刷新、インフルエンサー施策の設計に繋がっていった。
“見えない理由”を掘り起こす。それが、定性調査を実施する意味だ。
定性調査はどんなときに必要か?
- 数字だけでは「なぜ?」がわからないとき
定量で傾向が出ても、その背景や文脈を掘り下げたいとき。 - 新しい価値を創り出したいとき
生活者の「願望」や「違和感」を言語化して、次のアイデアの種を得るため。 - ブランドの意味を再設計したいとき
“好き”や“選ぶ”という感情の背景にあるストーリーを掘り起こすとき。
前回の記事「【仮説なき調査報告書の罪】読まれないリサーチレポートが犯している5つの問題と対策」(https://www.happy-carrer.com/blog/416)でも書いたが、仮説がないところに打ち手を見出すことは難しい。
LLM時代の定性調査:AIでは足りない“意味を読む力”
今、生成AIの進化によって、定性調査も効率化の波が来ている。
ChatGPTやClaudeなどを使えば、インタビューの要約や発話の整理も高速にできる。
しかし、「整理」と「解釈」は違う。
- どの言葉に“感情の震え”があったか?
- なぜその沈黙に、違和感を覚えたのか?
- この人の“背景”を踏まえたとき、本当は何を言おうとしていたのか?
それらを読み解くのは、人の経験と思考の深さだ。
LLMO(Large Language Model Optimization)は武器になるが、意味に血を通わせるのは人の仕事だと私は思っている。AIの進化速度はどの程度か私にはわからないものの、まだ難しいだろう。
定性調査が果たす本当の役割とは?
定性調査が導き出すのは「答え」ではない。
問いを問い直す力、そして意味を与える力である。
- 「私たちは何者なのか?」
- 「誰のどんな願いに応えているのか?」
- 「このブランドは、どんな未来をつくろうとしているのか?」
その問いこそが、戦略の芯になる。数字を補強するのではなく、意味に火をつける。
だから私は定量調査だけでなく定性調査も対応している。
おわりに:「問いを考える」仕事としてのリサーチ
マーケティングリサーチとは、データをつくる仕事ではない。ましてや販売促進手段でもない。
問いと向き合い、意味を立ち上げる仕事だと私は考えている。
もしあなたが、「数字の向こう側にある、選ばれる理由」を探しているなら。
定性調査は、きっとその手がかりを届けてくれる。ただし、定性調査の技術やスキル、経験がないといいものにはならない。昨今ではセルフリサーチでインタビューも自分たちで行うケースが増えているようだが、その数だけ失敗も増えていると思う。
ぜひ、プロのマーケティングリサーチャーに相談してみてはいかがでしょうか?
私で良ければご相談・ご依頼承ります。こちらから(https://www.s-r-a.jp/contact/)
ほな、さよなら三角また来て四角